当国情勢
2016年9月1日 - 9月30日
1 内政
(1)各政党の年次総会開催
ア 第65回スリランカ自由党(SLFP)年次総会
4日,北西部州クルネーガラで第65回SLFP年次総会が開催され,シリセーナ大統領・SLFP党首,クマーラトゥンガ元大統領・SLFP顧問,ディサナヤケ農業相・SLFP幹事長ほか多数のSLFP支持者が出席した。シリセーナ大統領はその演説で,来年の地方議会選挙では,ラージャパクサ時代の蓮のシンボルではなく,それ以前に党が使用していた手のシンボルで選挙戦を戦う,SLFPは同選挙を皮切りに勝利し続け,やがて政権を獲得する,ラージャパクサ派党員らも党を割って出て新党を結成するのではなく,党に残ってその勝利に貢献してほしいと述べた。
イ 統一国民党(UNP)の設立70周年記念式典
10日,UNP設立70周年記念式典が開催された。ウィクラマシンハ首相は,「我々のイデオロギー」と題した決議を提出し,党員に対し,国の将来を見据え,スリランカ国民の間の和解促進に向け協力するように呼びかけた。また,仏教に最重要の地位を与える,司法の独立を守る,諸外国による国家主権の侵害を許さない,内戦の影響を受けた北部州住民の経済状況を改善する等の決議も可決された。同式典にはシリセーナ大統領が主賓として参加し,大統領とウィクラマシンハ首相は,和解促進,経済の強化及びラージャパクサ前大統領の政治権力復帰の阻止に向け,5年間,継続して協力する旨を約束した。同式典には,クマーラトゥンガ元大統領も出席した。
ウ 仏教徒政党ジャーティカ・ヘラ・ウルマヤ(JHU)の年次総会
24日,コロンボのスガタダーサ・スタジウムでJHUの年次総会が開催され,その中で,オマルペ・ソービタ師が党首を辞任し,代わりにヘディガレ・ウィマラサラ師とパラナヴィタナ・メディア副大臣が共同党首を務めることになった。ソービタ師・前党首及びアトゥラリエ・ラタナ師は党の顧問に就任することになった。ラナワカ・メガポリス・西部開発相は幹事長に再任された。同大臣はその演説において,JHUは,大統領の強権廃止に反対であるとの噂があるが,これは誤りである,民主化を進める必要があると述べた。また,JHUは,人種差別主義から連邦制度に反対しているのではなく,国の安定を確保する観点から,連邦制度に反対しているのであるとした。さらに,JHUは,汚職撲滅に向けて政府にさらなる圧力をかけていくとも述べた。
(2)コロンボ・ディフェンス・セミナーの開催
1~2日,「ソフトパワーとその国際問題に対する影響」をテーマにディフェンス・セミナーが開催され,71か国の代表を含む約800名の軍関係者,軍事専門家,有識者らが参加した。2日,ウィーラコーン外務次官は同セミナーで演説し,スリランカは,インド洋の要衝に位置するという同国の潜在的ソフトパワーを活かしきれていない,スリランカのすぐ南のシーレーンでは毎日,200隻の船が往来しており,同シーレーンの安全と航行の自由は守られなければならない,スリランカは,民主主義,法による支配,人権擁護及び良い統治を促進するという形で,自国のソフトパワーを強化している,などと述べた。また同日,易先良(Yi Xianlian)中国大使は同セミナーで演説し,中国は,そのソフトパワーを活用し,全てのアジア諸国と緊密な関係を維持したいと考えている,仮に中国が南シナ海問題を解決するためにハードパワーを用いた場合,最悪の事態がもたらされる,中国はソフトパワーの効用を信じており,また,アジア地域の平和を望んでいる旨述べた。
(3)マラリアの撲滅
6日,世界保健機関(WHO)は,WHO東南アジア地域年次総会で,スリランカのマラリア撲滅を認定した。同地域内でマラリア撲滅を認定されたのは,モルディブに続きスリランカが二ヶ国目。
(4)外務省の移転
6日,閣議は現在の外務省の建物が英国植民地時代に建設された歴史的建造物であり保護する必要があるとの理由から,新たに外務省庁舎を建設することを承認し,コロンボ市内の別の土地,2エーカーを外務省新庁舎の敷地としてあてがう旨承認した。
(5)高速道路建設計画の閣議承認
9日,閣議で北部高速をダンブッラ経由で東部州トリンコマリーまで延長する計画,中央高速建設計画及びコロンボ・ラトナプラ間高速建設計画が承認された。
(6)新空軍司令官の任命
12日,ガガン・ブラテシンハラ空軍司令官が停年退職したことを受け,シリセーナ大統領はカピラ・ジャヤンパティー空軍副司令官を,新空軍司令官として任命した。
(7)閣議が付加価値税(VAT)関連法案を可決
13日,閣議はタバコ,粉ミルクや航空券に対するVAT関連法案を承認した。同法案は近々国会に提出される。同法案は,当初,7月に国会に提出されていたものの,法案が閣議で承認される前に国会に提出されていたため憲法で定められている手続きに反するとして,最高裁が無効であるとの判断を下した経緯がある。
(8)大統領による情報公開委員会委員の任命
30日,大統領は,憲法委員会の勧告に従い,以下の3名を情報公開委員会委員に任命した。同委員会は,先般,成立した情報公開法に基づき設置されるもので,各省庁による情報公開関連業務を監督する。
・マヒンダ・ガンマンピラ委員長(官僚出身)
・S・G・プンチヘワ委員(弁護士)
・キシャリ・ピント・ジャヤワルダナ委員(弁護士)
30日,国会改革・マスメディア省で情報公開法の情報公開法施行に関し,市民社会代表及び国外の専門家を招いた協議が行われた。
(9)ドゥミンダ・シルバ元国会議員他への死刑判決
2011年10月8日のコロンボ市議会選挙当日に,コロンボ市内でバラタ・ラクシュマン・プレマチャンドラ国会議員他が銃殺された事件に関し,コロンボ高等裁判所は8日,ドゥミンダ・シルバ元国会議員他,計4名に殺人容疑で死刑判決を言い渡した。
(10)干魃被害
北中央州ポロンナルワ県,東部州バティカロア県,トリンコマリー県,北西部州クルネーガラ県,北部州キリノッチ県,ワウニア県で干魃被害が発生し,4万8065世帯,18万8千143人に影響が出た。
2 国民和解
(1)国連強制失踪者委員会(WGEID)の見解
WGEIDは国連総会で,過去の失踪者の真実追究の分野でスリランカでは進展が見られるものの,責任追及に関しては,十分ではないと述べた。これに対し,アリヤシンハ・スリランカ駐国連代表は,WGEIDの報告書を歓迎する,スリランカ政府は,今後の和解への取組でどのようにWGEIDと協力していくのかを考慮すると述べた。
(2)北部州ジャフナにおける抗議デモ
24日,ジャフナにおいてウィグネーシュワラン北部州首席大臣率いるタミル人民評議会(TPC)や急進派のポンナンバラム元国会議員・タミル人民国家戦線党首らが,「立ち上がれタミル人(Eluga Tamil)」抗議デモを実施し,約1万人が参加した。彼らは連邦制の導入やタミル人の希望に沿った憲法改革,紛争末期の人権侵害事案に対する国際調査,テロ防止法(PTA)の撤廃,北部州からの軍の撤退,タミル人被拘留者の釈放などを要求した。また,デモ行進後,ウィグネーシュワラン州首席大臣はジャフナ市内の広場で演説し,タミル問題の解決,北部州と東部州の合併,北部州と東部州におけるシンハラ人による入植と仏教寺院建立停止を求めた。同日,デモへの連帯を示すべく,市内の商店は閉店し,公共輸送機関は運休した。一方,タミル国民連合(TNA)は同デモには参加しなかった。
同デモを受けて30日,急進派仏教団体ボドゥ・バラ・セーナ(BBS)らが,北部州ワウニアで抗議デモを実施した。グナナサラ師・BBS幹事長は,同首席大臣の発言は憲法違反であるとして,同首席大臣の逮捕を要求した。また彼らは,抗議書簡をワウニア県行政官に手交するとともに,大統領,首相,北部州知事及び警察庁長官にも送付した。
(3)北部州ワウニア県の軍人家族用住宅に対するギャングによる脅迫
北部州ワウニア県のコケリヤ戦没者家族住宅を,元LTTEメンバーを名乗るギャング集団が襲撃し,同住宅から立ち退くよう脅迫したため,住民らが,一時,パニック状態となった。警察もかけつけたが,同ギャング集団は逃亡した後であり,これまでのところ逮捕者は出ていない。
3 外交
(1)ウィクラマシンハ首相のシンガポール訪問
1日,ウィクラマシンハ首相は,インド財団が主催するインド洋に関する会議に出席し,「国際的なパワーバランスの変化とインド洋」と題する講演を行った。翌日,ウィクラマシンハ首相は,ビスワル米国務次官補とスリランカ及び南アジア情勢についてバイ会談を行った。3日,ウィクラマシンハ首相はガユーム元モルディブ大統領と会談し,その日の夜に帰国した。
(2)サマラウィーラ外相のスロベニア訪問
4日,サマラウィーラ外相がスロベニアを訪問し,6日には第11回BLED戦略フォーラムに出席。また,中東・バルカン半島国際研究所(IFIMES)でスリランカ政府の和解への取組につき講演した。同外相は8日に帰国した。
(3)ウィジェワルダナ国防担当国務大臣の国連平和維持会議への出席
7日からウィジェワルダナ国防担当国務大臣が,英国ロンドンで開催された国連平和維持国防大臣会議(UN Peacekeeping Defence Ministerial Conference)に出席。スリランカは現在,16の国連平和維持活動の内,9つの活動に参加している。
(4)シリセーナ大統領の第71回国連総会への出席
18日,シリセーナ大統領は米国ニューヨークでの第71回国連総会に出席するため,当地を出発。
20日,ケリー米国務長官がシリセーナ大統領を表敬し,シリセーナ政権の政治的方向性を称賛する,可能な限りの支援を行うと述べた。これに対し,シリセーナ大統領は,スリランカは経済的開発及び和解に向けた取組を行っているが,北部や南部の過激派から和解促進を妨害する動きもあり課題もあると説明した。
同日,シリセーナ大統領はターンブル豪首相とバイ協議を行い,豪政府のスリランカへの支援に謝意を表し,一方,ターンブル豪首相は,スリランカ政府が豪政府の人身取引撲滅に向けた取組に協力していることに謝意を表した。また,アクバル印外務担当国務大臣がシリセーナ大統領を表敬し,シリセーナ大統領は,先日カシミール地方で印軍基地に対して行われたテロ攻撃に弔意を表し,南アジア地域は協力してこのような暴力に対応するべきと述べた。アクバル印外務担当国務大臣は,スリランカ政府との協力事業の一部に遅延が見られると指摘し,改善を求めた。
21日,シリセーナ大統領は第71回国連総会で,スリランカ政府は,恒久的平和を達成し,内戦の再発を防止するために,和解プロセスに完全にコミットしており,民族間和解に取り組んでいるが,国際社会からの支援が必要と演説した。また,スリランカ政府は2017年を「貧困撲滅の年」(Year of Alleviation of Poverty)として国連と協力して持続可能な開発を促進する,また,薬物撲滅に取り組む,さらに,スリランカ国民のために,すでに民主主義の強化,良い統治の促進に取り組んでいるが,この分野でも国際社会からの支援が必要と述べた。
同日,シリセーナ大統領は国連総会で,気候変動に関するパリ協定批准書を潘国連事務総長に手渡した。
22日,潘国連事務総長はシリセーナ大統領と協議を行い,シリセーナ大統領が前日の演説で,良い統治及び和解促進に尽力を尽くすと述べたことを称賛した。また,先日スリランカを訪問した際に暖かい歓迎を受けたとして謝意を示した。これに対し,シリセーナ大統領は,潘国連事務総長及び国連のスリランカへの支援に謝意を示した。
23日,シリセーナ大統領は,NY滞在最終日の記者会見で記者団に対し,国連総 会のフリンジで面会した各国首脳は,自身の政権がもたらした,民主主義,グッド・ガバナンス及び和解に向けた前向きな変化を賞賛した旨述べた。
26日,シリセーナ大統領はスリランカに帰国した。シリセーナ大統領にはサマラウィーラ外相,カルナティラカ国会改革・マスメディア大臣,デシルバ交通・民間航空大臣,ラナトゥンガ港湾・海運大臣,ムスタファ州議会・地方議会大臣他が同行した。
(5)サマラウィーラ外相による国連平和構築基金プレッジ会合出席
21日,スリランカは,国連総会のフリンジで開催された本件会合をケニアやメキシコなどとともに共催した。同会合では平和構築基金に対し,30か国から計1億5200万ドルのプレッジがなされた。サマラウィーラ外相は,同会合の一部セッションの議長及び閉会挨拶を担当した。
(6)シタラマン・インド商業相のスリランカ訪問
26~27日,シタラマン・インド商業相が当地を訪問した。27日,訪問の最後にサマラウィクラマ開発戦略・国際貿易相とともに記者会見に臨んだシタラマン商業相は,両国間で交渉が行われている経済技術協力協定(ETCA)について,インドとして締結を望んでおり,来月初旬のスリランカ代表団によるインド訪問を歓迎するが,いつまでに署名するというように期限を切るべきではないと考える旨述べた。
(7)ウィクラマシンハ首相のニュージーランド訪問
29日,ウィクラマシンハ首相は,ニュージーランドに向けて出発した。同国滞在中,キー首相ほかとの会談などが予定されている。首相には,マイトリ首相夫人のほか,フェルナンド・デジタル・インフラ相,ラトナヤケ治安相,フェルナンドプッレ都市計画担当国務相,エカナヤケ首相秘書官などが同行している。
(8)スリランカによる南アジア地域協力連合(SAARC)首脳会議参加見合わせ
18日のインド・カシミールの陸軍基地へのテロ攻撃に端を発するインド・パキスタン間の対立を受け,30日,外務省は,最近の情勢は,11月9~10日に予定されている第19回SAARC首脳会議を開催するにふさわしいとはいえない,地域協力を追求するにふさわしい環境作りに向けて,地域の平和と安定を確保する措置が取られることを望む,スリランカはいかなる形態・理由のテロをも非難する,との声明を発出した。
(9)バングラデシュ海軍船艦の親善寄港
29日,バングラデシュ海軍船艦二隻が,コロンボ港に親善寄港した。6日間の滞在を予定している。
(10)マレーシアのタミル系住民による駐マレーシア・スリランカ高等弁務官襲撃事案
4日,クアラルンプール空港周辺で,ラージャパクサ前大統領によるマレーシア訪問を受けてデモを行っていたタミル系住民らが,別件で空港に来ていたアンサル駐マレーシア高等弁務官に暴力を振るい,頭を負傷させるという事案が発生した。同日,デシルバ外務副大臣は同事案を強く非難するとともに,5日,申し入れを行うために,駐スリランカ・マレーシア高等弁務官を外務省に召致。クアラルンプールでは,4日,デモ隊が,ラージャパクサ前大統領が立ち寄るとの噂が流れた仏教寺院の敷地に立入り,同寺院の住職に暴力を振るうという事案も発生した。
(11)カシミール地方での印軍基地への攻撃を批判する声明の発出
18日にカシミール地方で印軍基地が攻撃されたことを受け,スリランカ政府は19日,スリランカはいかなるテロ攻撃も認めない,国際社会はテロ撲滅に向けて協力しなければならないとの内容の声明を発表した。
(12)欧州司法裁判所におけるLTTEに対するテロ団体指定解除に向けた動き
22日,欧州司法裁判所で,英国代表を務めるシャープストン法務官が,EUによるハマスとLTTEのテロ団体指定は,報道などに基づいており,EU自らが調査したわけではないとして,指定解除を訴えたことに関し,外務省幹部は,ジュネーブ代表部に事態をフォローするように指示していると述べた。同裁判所では2014年にも指定解除の話が持ち上がったが,2015年にEU加盟各国がこれに反対し,LTTEに対するテロ団体指定は維持された経緯がある。
(13)中国建国記念日関連行事の開催
30日,バンダラナイケ記念国際会議場で,中国建国記念日及び中国・スリランカ協会創立記念日関連行事が開催され,主賓として出席したシリセーナ大統領は,現政権は,中国との歴史的な友好関係を一層強化させる所存である,などと挨拶した。