当国情勢

平成28年9月1日

2016年8月1日 - 8月31日

1 内政

(1)スリランカ自由党(SLFP)内の内紛:SLFP選挙区責任者の交代
17日,SLFP中央委員会は,16名のラージャパクサ派有力党員の選挙区・県責任者としての地位を剥奪し,代わりに40名の党員を当該地域の党責任者に任命した。これに対する抗議として,19日,アラハペルマ元青年相が,また21日にバンドゥラ・グナワルダナ元教育相がそれぞれ南部州マッタラ選挙区責任者,西部州コロンボ選挙区ホマガマ地区責任者からの辞意を表明した。これに対し,22日,シリセーナ大統領・SLFP党首は,マッタラ選挙区責任者としてラクシュマン・ヤーパ・アベイワルダナ財務担当国務相を,またホマガマ地区責任者としてティラクシリ元東部州大臣を任命した。しかしながら24日には新たに,ジャナカ・ワックムブラ議員がサバラガムワ州ラトナプラ県カラワナ選挙区責任者を辞任した。
同24日,SLFPのラージャパクサ派幹部らは,SLFPから割って出て,新党を結成することを決めた。同党は,立場の近い他の小政党らと選挙連合を形成する考え。

(2)統一野党の動き:統一野党による反政府デモ
1日,統一野党の反政府デモ行進がコロンボに到着し,最終目的地のコロンボ・リプトン・サーカスで,ラージャパクサ前大統領は大勢の聴衆に対し,自らの政権復帰を誓うとともに,支持を訴えた。

(3)連立政権発足一周年記念集会の開催
 19日,南部州マッタラで,SLFPとUNPとによる連立政権発足1周年記念集会が開催され,シリセーナ大統領,ウィクラマシンハ首相ほか閣僚らが出席。大統領は,ラージャパクサ前大統領派が新党を結成しようとするなら,彼らの秘密を暴露する,汚職にまみれた政治家らは二度と政権に復帰させない,現行の連立政権は次期総選挙の2020年まで継続される,などと演説した。また首相は,連立政権下で南部は経済発展を遂げる,政府は,ハンバントタ港やマッタラ空港を活性化させる,また,国際金融都市(旧称:コロンボ・ポート・シティ)計画はスリランカに多大な利益をもたらす,などと演説した。

(4)新外務次官の任命
 1日,大統領府で,エサラ・ウィーラコーン駐印高等弁務官が新外務次官として,就任宣誓を行った。同新次官は,これまで駐印高等弁務官のほか,駐米大使代理や,駐日大使代理も務めていた人物。この他にも,J.J.ラトナシリ氏が新行政・管理省次官に,D.G.M.V.ハプアラッチ氏が新港湾省次官に就任した。

(5)情報公開法の成立
 国会議長が情報公開法に署名し,同法が成立した

(6)最高裁が付加価値税(VAT)関連法案を無効と判断
 最高裁は9日,政府が国会に提出していたVAT関連法案に関し,同法案が閣議で承認される前に国会に提出されたのは,憲法で定められている手続きに反するとして,同法案は無効であるとの判断を国会に伝えた。

(7)汚職疑惑調査委員会(CIABOC)によるゴタバヤ前国防次官ほかの起訴
31日,CIABOCは,ゴタバヤ・ラージャパクサ前国防次官,ディサナヤケ元海軍司令官,コロンバゲ元海軍司令官,ペレーラ前海軍司令官を含む計8名を起訴した。同8名には,2012年8月から2015年1月にかけて,民間企業であるアバンギャルド社に違法に船上武器庫を運営させるとともに海上警備活動に従事させ,不正に114億ルピー(約79億円)の利益を上げさせた容疑がかけられている。
 
2 国民和解

(1)失踪者問題
ア 失踪者局(OMP)設置法案の可決・成立
 11日,失踪者局(OMP)設置法案が国会で審議され,修正を経て可決された。審議では,人民解放前線(JVP)が,JVP武装蜂起の際の失踪者も失踪者局の捜査対象に含まれるように要請し,一方で,統一野党は,スリランカ軍兵士が追求を受けることにつながるとして反対していた。
 23日,ジャヤスーリヤ国会議長がOMP設置法案に署名し,成立した。同法案は,8月11日に,統一野党議員らが議場内の一か所に集まり,抗議の声を上げる中で,採決に付されることなく可決された。OMPは,失踪者の捜査,失踪者の家族への支援,失踪者のデータベース作成などを任務としており,今後,同設置法に基づき,7名の職員が任命される見通し。
イ 大統領失踪者調査委員会,失踪者局に報告書を提出
 大統領失踪者調査委員会(通称:パラナガマ委員会)は12日,これまで同委員会が収拾した失踪者家族の証言をまとめた48ページにおよぶ報告書をアベイコーン大統領秘書官に提出した。今後,同委員会の活動は, OMPが引き継ぐ。
ウ 死亡登録法修正案の可決
 25日,失踪者の家族が,失踪した親族について死亡証明書の代わりに失踪証明書を受け取れるようにするための,死亡登録法修正案が国会で可決された。これにより,失踪者の家族は,失踪証明書をもって,失踪者からの遺産の相続や再婚などの行政手続を進めることができるようになる。なお,同修正法案が可決される前に,スマンティラン・タミル国民連合(TNA)議員が,これまでに死亡証明書を受け取った失踪者の家族もそれを廃棄し,失踪証明書を受け取れるようにしてほしいと提案し,政府側もこれを受け入れた。

(2)再定住問題
ア スリランカ人難民の帰国
 内戦中に印に逃れていた75名のスリランカ人難民が9日に帰国し,再定住省が,帰国に必要な交通手段や6ヶ月間分の乾燥食材の提供等を行った。
イ 軍による土地の返還
(ア)北部州キリノッチにおける軍用地の返還
 18日,北部州キリノッチ県カラッチで陸軍が保有していた25エーカー(約0.1平方キロ)がカラッチ郡役場に引き渡された。
(イ)北部州ワウニヤ県の陸軍駐屯地用地の返還
 陸軍が,過去26年間,ワンニ国防軍司令部の傘下にあった,北部州ワウニヤ県クディイルップ駐屯地の用地をワウニヤ県役場に返還した。
ウ 避難民問題の恒久的解決に向けた国家政策案の閣議承認
 16日,スワミナダン再定住相の提案による本件国家政策案が閣議で承認された。同政策案は,恒久的解決には,避難民による物理的な再定住にとどまらず,安全,住宅,水,衛生,保健,教育,生計手段の確保などが含まれるとしている。また,同政策は,避難民のジェンダー,民族,年齢,使用言語,宗教,地域などで差別することなく,全ての避難民に適用されるとしている。

(3)北部州キリノッチでのデモ行進
 22日,キリノッチで,幾つかの市民社会団体及び2名のTNA議員が,戦争犯罪疑惑を裁くメカニズムへの外国人判事の参加,北部州での仏教寺院建設中止,軍用地の返還,失踪者の家族への支援などを求めてデモ行進した。

(4)北部州投資フォーラムの開催
 22日,クーレイ北部州知事主催で,北部州投資フォーラムが開催された。同フォーラムは好評で,多数のタミル・ディアスポラや地元の投資家が参加した。また,クマラスワミ中央銀行総裁も本フォーラムに出席したが,ウィグネーシュワラン北部州首席大臣は姿を見せなかった。

(5)和解メカニズム調整事務局(SCRM)の強化にかかる閣議承認
 23日の閣議で, SCRMにさらなる人員と予算を付けて強化することが承認された。SCRMは,各種和解メカニズムの設置,運営を担うべく,昨年後半に設置された。

(6)国民和解局(ONUR)による通訳官プール制度立ち上げ
 24日,ONURは,行政機関が必要なときにシンハラ語,タミル語,英語通訳の支援が得られるように通訳官のプール制度を発足させるとともに,同通訳手配のための専用のウェブサイト(www.bashawa.lk)を立ち上げた。ONURは,語学試験により,全国から300人の通訳官を選抜した。

(7)警察官に対する倫理規定(Code of Ethics)
 ヘッティゲ国家警察委員会委員長は,警察官がプロ意識を持って任務に取組むように,倫理規定を導入した,同規定には,尋問に際して手荒なことはしてはならない,警察官には容疑者に裁きを下す権限は与えられていない,などと書かれている旨述べた。また,同委員長は,今後,警察官に対する研修において,本件規定についても取り上げていくとした。
 
3 外交

(1)対中関係
ア コロンボ国際金融都市(旧称:コロンボ・ポートシティー)の建設に向けた覚書の締結
 1日に開かれた閣議で,コロンボ・ポートシティー建設計画の再開に向け,スリランカ政府と中国港湾工程会社(CHEC)との間で新たな合意を締結することが承認された。同ポートシティーの建設計画を巡っては,計画停止により損害を被ったとして,CHEC側が1億5千万ドルの損害賠償を求めていたが,スリランカ政府側が,CHECに新たに2エーカーの土地を商業地域として与えることを提言し,損害賠償請求は取り下げられたもの。
 12日, CHEC,メガポリス・西部開発省及び都市開発局が,コロンボ国際金融都市(CIFC)(旧称:コロンボ・ポートシティー)の建設に向けた覚書を締結し,CHECはCIFCへの投資をさらに強化させる意向を表明した。同覚書の署名式には,サマラウィクラマ開発戦略・国際貿易大臣及びラナトゥンガ港湾・海運大臣が同席した
イ ウィクラマシンハ首相他の中国訪問
 13日~17日の間,ウィクラマシンハ首相が中国を訪問。訪問初日には,Hunag Jifan清津市市長と協議を行い,ベンガル湾,インド,中国,日本,シンガポールといったアジア諸国は,近い将来の国際経済をコントロールする巨大な勢力になるだろうと述べた。また,CIFCがシンガポールとドバイを結ぶ金融センターになる旨,及び,スリランカ政府の経済開発計画を説明した。一方,清津市長は,スリランカの投資環境改善に向けた支援を約束した。
 16日,ウィクラマシンハ首相一行は,広東省深セン市を視察した。深セン市幹部は,同市は産業・技術ゾーン設置について知見を有しており、スリランカにもその経験を喜んで共有するとした。首相一行はまた,深セン市のコンテナ埠頭をも視察した。その後,ウィクラマシンハ首相は,企業幹部らに対して講演した。
 首相には,ウィクラマシンハ首相夫人,プリヤダルシャナ・ヤーパ災害管理大臣,ラナワカ・メガポリス・西部開発大臣,エカナーヤカ首相府次官,チャリタ・ラトワッテ首相上級顧問,サマン・アタウダヘッティ首相府次官補,アイジッタ・デコスタ西部メガポリスプロジェクト責任者,マンガラ・ヤーパ開発局局長,シランタ・ヘラット南部開発委員会委員長,ラヤン・ロックウッド開発戦略・国際貿易省顧問が同行した。

(2)ウィクラマシンハ首相のインドネシア訪問
 1日~3日にかけ,ウィクラマシンハ首相がジャカルタで開催される第12回世界イスラム会議に出席するため,インドネシアを訪問した。2日,ウィクラマシンハ首相は,同会議の開会式で,演説を行った。3日,ウィクラマシンハ首相は,ジョコ・ウィドド・インドネシア大統領とバイ会談を行い,ジョコ大統領は,インドネシアがスリランカの鉄道システムの開発に参加する意向を表明した。また,ウィクラマシンハ首相とジョコ大統領は,二国間の投資及び貿易強化に向けた委員会及び外交と経済に関する合同委員会の設置に合意した。
 この他にも,ウィクラマシンハ首相は,世界イスラム会議に出席していたラフモン・タジキスタン大統領,アル・アナニ・ヨルダン副首相,ラザク・マレーシア首相,アリ・イスラム開発銀行会長ともバイ協議を行った。
 ウィクラマシンハ首相には,ウィクラマシンハ首相夫人,ハシム国営企業開発大臣,ファウジー国民統合・和解担当国務大臣,セナシンハ国際貿易担当国務大臣が同行した。

(3)スリランカ・ジョージア第一回政策協議の開催
 3日~4日の間,初のスリランカ・ジョージア政策協議がスリランカ外務省で開催され,二国間の貿易や投資についての協議が行われた。第2回政策協議は,2017年にジョージアで開催される。ジョージア側の代表団は,ヤラガーニャ・ジョージア副外相により率いられ,同副外相は,ウィーラコーン外務副大臣ともバイ会談を行った。

(4)エルナ・ソルベルグ・ノルウェー首相の来訪
 12日~13日の間,当地を公式訪問したソルベルグ・ノルウェー首相は,12日,シリセーナ大統領と漁業,IT,エネルギー,水素・太陽光発電,及び石油・天然ガスの分野につき,協議を行った。シリセーナ大統領は,ノルウェーから漁業の分野で支援を期待している,アマラウィーラ漁業・水産資源開発大臣が来週、漁業セクターでの二国間協力模索のため,ノルウェーを訪問予定である旨伝えた。ソルベルグ首相は,スリランカが中間所得国となった今,開発支援及び貿易・産業・ビジネスの分野での協力に焦点を当てていきたいとの考えを示した。
 ソルベルグ首相は同日,サンパンタン野党代表とも協議を行い,サンパンタン野党代表は,北部・東部では軍が占拠していた土地の一部は返還されているが,スリランカ政府にはもっとできることがあるはずだと述べた。これに対し,ソルベルグ首相は,ノルウェーは,今後も継続してスリランカの経済開発及び和解促進に向け協力する旨を述べた。

(5)イリナ・ボコヴァUNESCO事務局長の来訪
 シリセーナ大統領の招待により,14日~17日の間,イリナ・ボコヴァUNESCO事務局長が,スリランカの文化遺産への見解を深めるため,当地を来訪した。14日~15日にかけ,ポロンナルワとシーギリヤ及びキャンディーを視察し,キャンディーではエサラ・ペラヘラ祭を鑑賞。17日には,シリセーナ大統領を表敬し,気候変動対策や環境保護のためには強い政治的意志が必要であると伝えた。これに対し大統領は,政府による環境保護へのコミットを確約した。ボコバ事務局長は,サマラウィーラ外相,キリエッラ大学教育・ハイウェー大臣,カリヤワサム教育大臣,プレジャヤンタ科学・技術・研究大臣とも協議を行った。

(6)トッド米国務副次官補の来訪
 23日,ウィリアム・E・トッド米国務副次官補(南・中央アジア担当)がスリランカに到着し,24日,クマーラトゥンガ元大統領・国民和解局議長,サマラウィーラ外相,市民社会代表らと会談した。

(7)仏海軍艦船の親善寄港
 15日,仏海軍艦船「ラヴィ号」がトリンコマリー港に親善寄港した。18日に出港した。

(8)米国との軍事交流
ア 米太平洋軍による北部州での奉仕事業
15日~22日にかけ,米太平洋軍による北部州での奉仕事業「太平洋の天使」が行われ,米太平洋軍関係者が地元の人々を無料で診察し,また,学校や図書館を修復した。
イ 米海軍潜水母艦のコロンボ寄港
 29日,米海軍潜水母艦「フランク・ケーブル」が補給・親善のためにコロンボ港に寄港した。米海軍艦船の寄港は本年に入って3回目。

(9)ラージャパクサ前大統領の外遊
ア ラージャパクサ前大統領のマレーシア訪問
1~4日,ラージャパクサ前大統領はアジア政党国際会議(ICAPP)に出席するため,マレーシアを訪問した。
イ ラージャパクサ前大統領の韓国訪問
 5日,ラージャパクサ前大統領が韓国に到着した。前大統領には5名の統一野党議員らが同行しており,韓国在住のスリランカ人労働者との協議等が予定されている。

(10)新駐英高等弁務官の就任
 アマリ・ウィジェワルダナ「スワデシ・セダワッタ・グループ」(Sweadeshi and Sedawatte Groups:当地有数の複合企業)会長が,8日に,新駐英高等弁務官として就任する。駐英高等弁務官の地位は,ここ18ヶ月の間,空席となっていた。