当国情勢

平成29年5月31日

2016年12月1日 - 12月31日

1 内政

(1)民間バス・スリーウィーラー運転手のストライキ
 2日,交通違反(飲酒運転,スピード違反,運転免許不保持等)の罰金を2万5千ルピーに引き上げる政府の方針に反発して,全国の民間バス及びスリーウィーラー運転手がストライキ及びプロテストを行った。これにより生じる交通機能麻痺に対応するため,政府は,国営スリランカ交通局のバス運行数を増数したものの,運行した一部のバスが,プロテスト参加者から投石を受け,複数の怪我人が出る等の被害が出た。

(2)スリランカ人民戦線(SLPP)仏教僧支部(Bhikkhu Wing)の設置
 8日,SLPPは,新憲法制定等の重要政策に対する国民の理解を深めることを目的とし,仏教僧支部を設置し,式典にはラージャパクサ前大統領も出席した。同式典でラージャパクサ前大統領は,強権のある大統領制の廃止は第20次修正を通して簡単に行うことが可能であると述べた。

(3)2017年度予算案の可決
 10日,2017年度予算が賛成165票,反対55票,欠席4票で可決された。タミル国民連合(TNA)は賛成票を投じたものの,国民統一戦線(JVP)及び統一野党が反対票を投じた。

(4)閣議による開発法案(Development Bill)の承認及びこれを巡る動き
 20日,開発法案(特別規定:special provision)が閣議で承認された。これを受け,22日,ペレーラ・スリランカ自由党(SLFP)報道官(ハイウェー担当国務大臣)は記者会見で,SLFP議員の一部は巨大な権力を持つ大臣の地位を設立ことには反対する,修正を行わないのであれば開発法案を支持しないと述べた。同日,ウーワ州議会が,開発法案を否決した。
 23日,ウィクラマシンハ首相は,開発法案に関し,首相官邸で州首席大臣と協議を行い,同法案は,決して権限を中央に集権するものではなく,州議会が国の開発プロセスへの関与を深めることに寄与すると説明した。同協議には,南部州,西部州,東部州及びウーワ州の首席大臣が出席した。しかしながら,27日,南部州議会及びサバラガムワ州議会が,開発法案を否決した。そして,29日までに,全9州の内,東部州議会を除く8つの州議会で否決された。

(5)地方議会選挙の選挙区割り見直し委員会の報告書の提出の延期
 27日,地方議会選挙の選挙区割り見直し委員会の報告書の提出が行われる予定であったが,翻訳作業が終わらず,提出が一週間延期された。

(6)ラトナシリ・ウィクラマナヤケ元首相の逝去
 27日,ラトナシリ・ウィクラマナヤケ元首相が83歳で逝去した。

(7)ジャヤラトネ州議会・地方議会担当国務大臣の辞任
 30日,プリヤンカラ・ジャヤラトネ州議会・地方議会担当国務大臣が大統領に辞表を提出した。辞表の中で同国務大臣は辞任の理由として,選挙区プッタラムの支持者から政府の地方選挙実施の遅延を理由に辞任するよう求められたことを挙げ,辞任後もSLFP議員として議会に残るものの,SLFP政権成立まで大臣職を引き受けることはないと述べた。

(8)ラージャパクサ前大統領の新年メッセージと政府首脳の反応
ラージャパクサ前大統領は「2017年はスリランカにとって決定的な年となるだろう」と題した新年のメッセージで,国を分断する権限委譲案,インドとのETCA,ハンバントタ港の民営化等は,現政権による歓迎されざる施策であり,経済成長率の減少,外貨準備の減少,壊滅的な為替相場,増税,インフレの増大等をもたらすことになる,連立政権内にいるSLFP議員は良心の呵責に悩み揺れている,彼らは公然と統一国民党(UNP)批判を行いながら,VAT増税や失踪者局設置法案で政府案に賛成し,統一野党と共に開発法案に反対しながら,権限委譲提案についてUNPと協力している,この国の独立と領土の統一性は,2017年,機能不全の度合いを増す現政権の下,先行き不透明となっている旨述べた。

(9)前政権の汚職追及
ア ゴタバヤ・ラージャパクサ元国防次官の渡航禁止令解除
 1日,民間企業であるアバンギャルド社に洋上武器庫の使用及び海上警備活動を許可し,不当に多額の利益を上げさせた容疑で裁判が続いている関係で,アバンギャルド社重役6名とゴタバヤ・ラージャパクサ元国防次官に課されていた渡航禁止令が,国外への渡航を一週間前までに裁判所及び贈賄対策委員会に伝えるとの条件の下,解除された。次回公判は2月13日に予定されている。
イ バシル・ラージャパクサ前経済開発相の起訴を巡る動き
6日,法務長官の決定により,コロンボ高等裁判所は,農村開発局(ディヴィネグマ局)の予算をラージャパクサ前大統領の選挙費用の一部として流用した疑いで起訴されていた,バシル・ラージャパクサ前経済開発相への起訴手続きに瑕疵があったとして,起訴を取り下げた。翌7日,法務長官は,2014年11月23日~12月31日に農村開発局の2,940万ルピーをラージャパクサ前大統領の選挙費用の一部として流用した疑いで,バシル前経済開発相を起訴し直した。
 
2 ハンバントタ港開発を巡る動き

(1)6日,スリランカ政府が中国国営企業と南部州ハンバントタ港開発を官民連携で行う合意を締結することで,職が失われるのではとの懸念から,同港の労働者がストライキ及び港の運営を妨げる抗議運動を開始した。これにより,船艦の入港ができなくなり,すでに入港していた2隻の商船(内,一隻は川崎汽船の自動車運搬船)の出港もできない事態となった。

(2)8日,中国国営企業の招商局港口との間で,官民連携による南部州ハンバントタ港開発を行う枠組合意(framework agreement)が締結された。開発戦略・国際貿易省の声明によると,本件合意は,閣議決議に基づき締結されたもの。これにより,ハンバントタ港開発で生じた債務を解消するために,招商局港口に株式が売られ,運営権が譲渡されることになる。

(3)10日,ハンバントタ港でのストライキへに対応すべく,スリランカ海軍が派遣され,川崎汽船の自動車運搬船"Hyperion Highway"は,10日夜に目的地のオマーンに向けて出港できたが,港でウィジェグナラトナ海軍司令官が,当地英字紙アイランド紙の記者につかみかかる事案も発生した。

(3)13日,ウィジェグナラトナ海軍司令官が,ハンバントタ港でストライキを行っていた同港労働者の取材を行っていた記者につかみかかったことを受け,中央部州キャンディーで,キャンディー・ジャーナリスト協会(Kandy Journalists' Association)が抗議デモを行った。

(4)14日,ハンバントタ県の住人が,ハンバントタ港の中国企業への売却に反対の意を示す抗議活動を行った。
オ ラナトゥンガ港湾・海運大臣が,ストライキを行っていた港湾労働者に対し,14時までに職務復帰しなければ解雇するとの通達を出していたところ,15日港湾労働者は9日間に及ぶストライキを終了した。

(5)15日夜,ウィクラマシンハ首相は首相府官邸でウィジェグナラトナ海軍司令官と協議を行い,同司令官は,ハンバントタ港でのストライキ・抗議活動に対する海軍の対処の報告書を提出した。

(6)23日,南部州ハンバントタ県の農民約1,000名が,ハンバントタ港の土地を中国企業に貸し出すことに反対し,ハンバントタ行政庁舎前で抗議運動を行った。

(7)24日,ラージャパクサ前大統領の息子であるナマル・ラージャパク議員が,中国企業と合同で行われるハンバントタ港の開発は多くの地域住民を立ち退かせる,統一野党はそのような事業には断固として反対するとして,ハンバントタで抗議行進を行った。同地域では,人民解放戦線(JVP)による,ハンバントタ港の中国との合同開発に反対する抗議運動も行われていた。
 
3 国民和解

(1)新憲法制定に関する動き
ア 新憲法制定に向けたシリセーナ大統領の発言
 1日,シリセーナ大統領は,和解を進めてこなかったために惨事が発生した,「国家の課題」(national issue)は次世代まで残さず,今解決するべきだ,ラージャパクサ前大統領が,新憲法が国を二分化するというようなことを吹聴していることを悲しく思っている,和解を推進するために新憲法制定が必要であり,それに向けて国民世論を高める必要があると述べた。
イ ウィクラマシンハ首相,サンパンタン野党代表及び統一野党の協議
 9日,ウィクラマシンハ首相及びサンパンタン野党代表が新憲法制定に関し,ラージャパクサ前大統領及び統一野党と協議を行った。グナワルダナ統一野党代表によると,ラージャパクサ前大統領は,連立政権が新憲法に対する立場を表明していないので,自らは何らのコミットもしない旨述べた由。統一野党側はウィクラマシンハ首相及びサンパンタン野党代表に対し,新憲法制定議会の運営委員会委員に所属する統一野党議員の見解が無視されているとして不満を表明した。
ウ UNPが「実権を有する大統領制」維持を求める
 UNPの執行委員会は,「統一国家」(unitary state)の枠組の下で地方に権限移譲を行った上での強権のある大統領制維持を支持するとの声明を発表した。
エ 海外に居住するスリランカ人が連邦制に反対の意を表明
 22日,2016年9月に国外に居住するスリランカ人により設置された世界スリランカ・フォーラム(Global Sri Lanka Forum:GSLF)が,コロンボで記者会見を開き, イタリア,UAE,フランス,日本,モナコ及び英国に拠点を置くGSLFのメンバーが,新憲法制定に関し,憲法制定議会の「中央・地方関係」小委員会提言書は連邦制を暗に推進していた,我々はこのような内容に賛同できない,同問題について,21日にシリセーナ大統領と協議を行い,大統領は,同小委員会の提言に賛同しないと述べ,同提言書が新憲法に反映されないことを約束したと旨述べた。また,スリランカの統一国家(unitary state)への脅威に立ち向かうべく,今後,国内外から圧力をかけることを決定したとも述べた。

(2)軍による義足の提供
 軍が北部州ムライティブ県で,内戦で障害を負った市民48名に義足(220万ルピー相当)を提供した。
 
4 外交


(1)マイク・ペンス次期米国副大統領とシリセーナ大統領との電話会談
 1日夜,マイク・ペンス次期米国副大統領が,シリセーナ大統領に架電し,現政権の取組を称賛するとともに,二国間関係の強化に向け,シリセーナ大統領を米国に招待した。シリセーナ大統領は11月26日,次期米国大統領に対し,国連人権理事会によるスリランカに対する戦争犯罪疑惑追求が停止されるよう支援を求めると述べていた。

(2)ラフモン・タジキスタン大統領の来訪
 12日から3日間,ラフモン・タジキスタン大統領が当地を公式訪問した。13日,ラフモン・タジキスタン大統領はシリセーナ大統領を表敬。シリセーナ大統領はスリランカへの投資を呼びかけ,国家の安全保障,観光,水力発電.貿易及び麻薬取引撲滅に向け,関係強化を行いたい旨伝えた。これに対し,ラフモン・タジキスタン大統領は,青少年育成及び観光・宝石・アパレル産業分野でスリランカから技術を学びたい旨述べ,また,シリセーナ大統領をタジキスタンに招待した。さらに,同協議終了後,4つの分野((1)両国の外務省間の関係強化,(2)観光産業,(3)体育及びスポーツ,(4)スリランカ開発戦略・国際貿易省とタジキスタン経済省間の協力)で覚書が締結された。同協議には,ウィクラマシンハ首相,アマラトゥンガ観光開発・キリスト教・土地大臣,サマラウィクラマ開発戦略・国際貿易大臣,ジャヤセカラ・スポーツ大臣,デシルバ外務副大臣,アベイコーン大統領府次官及びウィーラコン外務次官が同席した。
 同日,ラフモン・タジキスタン大統領は2国間の関係に関する協議を行うべく,別途,ウィクラマシンハ首相及びジャヤスーリヤ国会議長と面会した。

(3)シリセーナ大統領のマレーシア訪問
 15日~17日にかけ,シリセーナ大統領がマレーシアを訪問した。15日,シリセーナ大統領は,二国間の60年に及ぶ外交関係をさらに強化すべく,スリランカ・マレーシア・ビジネス・フォーラムを始動させた。同フォーラムでサマラウィーラ外相は,マレーシアは,スリランカに投資を行っている国の内,投資額が上位5位に入っている,2015年だけでも,計20億ドルの投資がマレーシアからスリランカに対し行われた,今後も,マレーシアのビジネスがスリランカのインフラ開発等に投資してくれることを期待していると述べた。同フォーラムにはマレーシアからモハメド国際貿易・産業大臣,テワラッペルマ内政・ワヤンバ開発・文化副大臣,ナナヤッカラ海外雇用副大臣が出席した。
 16日,シリセーナ大統領はラザク・マレーシア首相と協議を行い,現政権の良い統治及び和解の促進に向けた取組,新憲法制定に向けた働き,そして経済開発戦略に関し,説明した。これに対し,ラザク首相はスリランカ政府のこれらの取組を支持する旨表明した。シリセーナ大統領はまた,スリランカへの投資を呼びかけ,さらに,スリランカ・マレーシア間の自由貿易協定締結に向けた可能性を追求することで合意した。協議後,両者は,5つの分野((1)観光,(2)青少年育成,(3)雇用,(4)文化・芸術・伝統,(5)スリランカ農業政策評議会とマレーシア農業研究・開発機構の間で科学的研究及び技術的協力関係を結ぶ)での覚書の締結に立ち会った。
 同日,シリセーナ大統領はムハンマド・マレーシア国王を表敬し,ムハンマド国王は新政権の活躍を称賛し,スリランカに対し,あらゆる支援を行うよう,マレーシア政府に指示したと述べた。

(4)中国関係
ア 国会議員一行の中国訪問
 バンダーラ技術開発・職業訓練担当国務大臣によると,同国務大臣及び国会議員で構成された計14名の国会議員団が中国の投資家のスリランカへの信頼を回復すべく,中国を訪問し,広東省の高速道路や都市計画及び技術に関してブリーフィングを受けた。また,バンダーラ技術開発・職業訓練担当国務大臣は,ラージャパクサ前大統領が先日中国を訪問した際,中国の投資家に,統一野党が地方議会選挙で勝利する,近々政権交代が行われるため投資は控えるよう伝えたことで,彼らはスリランカ投資におよび腰になりつつある,我々は中国の投資家に対し,地方議会選挙では,UNPとSLFPが共闘し,現政権側が勝利を収める旨伝えたと述べた。
イ スリランカ・中国防衛関係の強化
 中国が,カトゥナヤケのスリランカ空軍基地に,「航空機分解点検部門」(Aircraft Overhaul Wing)を設置した。同部門の設置に向け,2016年初旬から中国航空技術輸出入公社(CATIC)の専門家が派遣されており,同専門家は,スリランカ空軍が同部門の管理・運営を自ら行うことができるようになるまで駐在する。1日,中国側は,同部門で分解点検したPT6練習機2機をスリランカ空軍に引き渡した。
ウ 中国事業への捜査開始
 スリランカ政府は先週,前政権末期に中国企業と締結された,7億ドル相当の河川改修事業に関する捜査を開始した。同事業は中国CAMCエンジニア(China CAMC Engineering)が入札したものであり,すでに3000万ドル相当の前払い金が大統領選挙前夜に支払われていた。

(5)潘国連事務総長がシリセーナ大統領に架電
 22日,潘国連事務総長がシリセーナ大統領に架電の上,同大統領の社会・政治・経済の分野での進展,また,和解促進に向けた同大統領の姿勢を称賛した。また,国連事務総長の地位を退陣しても,スリランカの社会経済的開発の促進を支援すると約束した。シリセーナ大統領は,潘国連事務総長のこれまでのスリランカへの支援に謝意を示した。

(6)自衛隊艦船の親善寄港
 4日,海上自衛隊艦船がコロンボ港に親善寄港した。5日に出港を予定している。

(7)ゴタバヤ・ラージャパクサ元国防次官一行の訪日
 13日,ゴタバヤ・ラージャパクサ元国防次官及び統一野党グループのアベーグナワルダナ議員,ガンマンピラ議員,プレマラトナ議員から成る一行が,「マヒンダのための共同体」(Collective for Mahinda)の招待で日本に到着し,蘭華寺で開催された宗教式典に参加した。ラージャパクサ元次官は,スリランカの寺は二国間関係強化,スリランカ文化の維持,在外スリランカ人へのサービス提供に資するものであり,外交関係強化のため,スリランカ政府はスリランカ人コミュニティーや仏教僧を活用すべきである旨スピーチした。

(8)インド・スリランカ間のオープンスカイ協定締結
 インドの6つの国際空港(デリー,ムンバイ,ハイデラバード,コルカタ,ベンガルール及びチェンナイ)へのスリランカからの発着に上限を設けないオープンスカイ協定が締結された。

(9)ジャヤラリタ印タミルナドゥ州首席大臣の死去を受けた弔辞
 6日,ジャヤラリタ印タミルナドゥ州首席大臣の死去を受け,シリセーナ大統領及びウィクラマシンハ首相が弔辞を発表した。

(10)駐トルコ露大使暗殺を受けたスリランカ外務省声明
 19日にトルコで駐露大使が暗殺された事件を受け,スリランカ外務省は20日,いかなるテロ行為も非難する,外交団の権利及び安全を保障すべく,国際社会は協力しなければならない旨の声明を発出した。

(2)独クリスマス・マーケットでのテロを受けたスリランカ外務省の声明
 19日に,独ベルリンのクリスマス・マーケットでテロが起きたことを受け,スリランカ外務省は22日,お祝いの期間に一般市民を攻撃することは,自由及び多元的共存への攻撃であり,社会を分断し,恐怖を広める試みであるとして批判する内容の声明を発表した。